阿部 静子 Shizuko Abe

「原爆の生き証人」として生きて

12. 証言活動と伝えたいこと

子ども達3人が自立し家を出てから、私は証言活動を始めました。初めて証言したのは東京の板橋から来た中学生の親たちでした。修学旅行の下見で、被爆者がどんなことを子ども達に語るのか知りたかったそうです。その後は数え切れないほどの証言の場を与えられ、活動を続けましたが、胃がんの治療のため2012年4月3日の証言が最後になってしまいました。証言をするのは主に修学旅行生ですが、外国人も多かったです。特に5月、10月の修学旅行シーズンは多く、毎日、多い日で一日に三度も証言をすることもありました。一日に何度も辛い体験を思い出しながら話をすることは、胸を張り裂かれるように感じる時もありました。

私が若い人たちに伝えていることは、世界平和と大きいところから始めるのではなく、どうぞ自分の周りの人たちに思いやりを持ってくださいということです。私は平和巡礼に参加し、バーバラさんやアメリカ人の温かい心に触れ、周りの人を慈しむところから、平和は始まると確信しました。小さな平和の輪が少しずつ広がって大きな輪になっていくのです。

「まずお父さん、お母さん、先生に感謝の気持ちを伝えてください。」

と話しています。ある時、修学旅行で私の話を聞いた後、家に帰り、両親に「ありがとう。」と言いましたというお手紙をいただきました。それは本当に嬉しかったです。

家族、近所の人、友達に、どうぞ思いやりのある言葉をかけてください。差別するような言葉や蔑むような行動は、相手の心の傷に塩を塗り込み、1の傷をさらに大きく10倍ほどの傷にさせてしまうものです。けれども優しい言葉は傷を癒やす力を持っています。そしてそこから平和の輪は大きくなっていくのです。

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