濵井 德三 Tokuso Hamai

失った命は二度とかえらない

8. 戦争は絶対してはならない

私は11歳の時、原爆で家族全員を失いました。叔父の家で大切に育ててもらったことは心から感謝しています。自暴自棄にならずに成長できたことは、叔父夫婦のお陰だと思っています。けれどもやはり心のどこかで常に叔父家族に気を遣いながら生活していたことは否めません。育てて貰っている間、一度も「おじさん」「おばさん」と呼んだことはありませんでした。いつも用件だけぶっきらぼうに言っていました。なぜなのか言葉で説明はできないのですが、どこかでなつききれない複雑な思いがあったのでしょう。

人の命は、一度失われたら二度と戻りません。家も町もすべて失いました。子供時代やんちゃをして怒られた店も学校もすべて灰になってしまいました。原爆さえなければ・・・何度思ったか分かりません。今でも原爆ドームの近くに行くと胸が苦しくなります。特に夜は怖くて通りたくないです。原爆ドームの保存運動が起きた時も、私は保存に反対でした。保存することで、後世に原爆の惨禍を伝えていきたいという賛成派の意見は理解できます。けれども、私のように子供時代毎日楽しく遊んでいた思い出の中に必ず登場する産業奨励館(現・原爆ドーム)は、楽しい思い出の中だけに存在し続けてほしいのです。すべてを奪われ、悲しくて苦しい時の姿は見たくないというのが本当の気持ちです。

ずいぶん前に北海道から九州まで巡るツアーに参加したことがあります。全国から36人が参加していました。何日も一緒に行動しているのに、誰もヒロシマに興味を示さないばかりか、原爆についても知らないのです。広島・長崎を一歩出ると、平和教育もされていないことに衝撃を受けました。実際に戦争を経験したことがない、また戦争が引き起こす惨禍を知らない人達は、「憲法改正」「防衛費倍増」などと威勢のいいことを言うのでしょう。日本はこれからも核兵器を持たず、平和憲法を守り続けてほしいと願っています。戦争は絶対にしてはいけません。

Share