早志 百合子 Yuriko Hayashi
奇跡に生かされて
9. 被爆体験の伝承だけでいいのか?
原爆が投下されて今年で80年。第二次大戦が終わった時、私はこれだけ甚大な被害をもたらした原爆というものは、もう二度と使われることはないだろう、このようなとてつもない悲劇を生む原爆を再び使うほど、人類は愚かではないだろうと確信していました。けれども今なお世界には核兵器を持つ国があり、世界中で12000発の核兵器が保有され、そのうち4000発はすぐに使えるように配備されていると聞いています。
2024年には、被爆者の平均年齢は86歳を超えました。広島市は、被爆者の高齢化、人数の減少に伴い、現在被爆の伝承に力を入れており、被爆者の体験をそのまま伝える伝承者を育成する事業を行っています。私はどの被爆者団体にも所属していませんし、広島市の被爆証言者の登録もしていませんが、60歳のころから個人的に頼まれた時に、年に数回ほど証言をしています。驚いたことに、広島市では、伝承者が講話原稿の中に、核兵器廃絶を訴える言葉を入れると削除されてしまうと聞きました。語っていいのは、自分が担当している被爆者の原爆体験だけだというのです。
もちろん実際に残酷な経験した被爆者の話を聞いたり、その話を伝えて行くことは、もし核兵器が使われたらどうなるのかを伝える意味において、とても大切なことだとは思います。しかし、私は体験を話すことや、その体験を伝承していくことだけでいいのだろうかというモヤモヤした気持ちを持っています。話したり伝えたりするだけで、現在、世界中に拡散している核兵器はなくなるのでしょうか?これまでも被爆者は辛い体験を機会あるごとに語ってきました。でもそれで核兵器はなくなったでしょうか?
日本は唯一の戦争被爆国と言いながらも、いまだに核兵器禁止条約に批准すらしていません。また世界中の核保有国は、核兵器を持つことで自国の安全を担保しているという核抑止論を信じています。私は「核抑止論」は「持っていたら、すぐ使える」という威嚇だと思っています。相手を威嚇するだけで、平和は訪れるでしょうか?
私は被爆者として、体験を語ると同時に、理屈抜きで核兵器を持ってはいけないし、いったん使われると人類は滅亡してしまうのだ、地球が破滅してしまうんだということを声を大にして言いたいです。そしてそれを聞いた若い人たちには、ぜひ自分事として考えて貰いたいです。核兵器を持つことは、あなたの未来をなくしてしまうことなのです。核兵器は抑止ではなく廃絶しかないのです。

