2009年09月12日

20  ドイツ編

聖サルバド教会

 ニュルンベルグの聖サルバド教会で聖遺物を見ていると、「私は、ちょっと用事があります」と言い残して通訳の筑紫さんが事務所の方に小走りに去った。 それから数分後、「正午から戦死者への和解礼拝を始めます。本日は、広島から平和巡礼団をお迎えしています。そのメンバーであるオペラ歌手の渡辺朝香さんに『ヒロシマからのメッセージ』を歌って頂きます」と放送があった。あれっと思っている間に、会堂の椅子席が埋まり始めた。筑紫さんに耳打ちされた朝香さんが祭壇に進んだ。

 聖職者が「第二次世界大戦中、ドイツ軍はイギリスの都市コベントリーを壊滅させました。戦後、この教会はコベントリーの教会に謝罪を申し入れました。それぞれの教会は瓦礫の中から拾った釘で十字架を作り、和解の印にしました。攻撃したのが金曜日でした。以来、毎金曜日正午に戦死者に捧げる礼拝をしています」と言われた。

 やがて、朝香さんの歌うアカペラ「世界の命=広島の心」(原田東岷・詩、藤掛廣幸・曲)が会堂の丸天井に転がるように響き渡った。

 礼拝後、参列者が朝香さんと握手するために集ってきた。彼らは口々に「今の歌はヒロシマの讃美歌ですね」と賛辞を惜しまなかった。涙を流している人もあった。

 朝香さんはエッセンでもノイエキルヘンでも、ラジオ取材の際にも、これと同じ場面を経験していた。音楽家集団からも「8月6日、広島とドイツで、この曲を演奏しましょうよ」とも呼びかけられていた。

 私のように被爆体験を語ることも意味のある事だが、芸術が訴える力を確認した朝香さんと私は、帰りの飛行機の中で、これからの活動について語り合った。

 01年8月6日、「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)」による「8・6ヒロシマ国際対話集会・反核の夕べ」のオープニングで、作曲者・藤掛廣幸氏の指揮の下、市民合唱団150名(4歳から88歳まで)が、「世界の命=広島の心」を歌った。

 翌年の8月6日は250余名の市民が、あの日と同じ晴れ渡った空の下で高らかに歌った。
若い世代のプログラム「平和へのアピール」も増え、年毎に参加者が増え続けている。

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(世界の命 広島の心 市民合唱団)

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(聖サルバド教会)

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