2010年05月05日

30 スウェーデン編 3-3

核戦争防止に向かって

 
 01年のクリスマスイヴ。スウェーデンから来広されたガボー・ルンクマニ医師夫妻を広島市の流川教会で行われる聖夜礼拝にお誘いした。チェコ出身でキリスト教信者のガボー氏は広島でクリスマスを迎えたことを喜ばれた。仏教徒だと言われる妻のティローレさんは「機会があったらキリスト教会に行ってみたかった」と心を動かされた。

 会堂に1歩足を踏み入れると、パイプオルガンの荘重な音色が身に迫ってきた。礼拝堂の正面には被爆して黒こげになった十字架が天井から吊り下げられている。仰ぎ見た夫妻は、その壮絶さに圧倒されて言葉を失ってしまわれた。

 翌年、私がスウェーデンの反核兵器を提唱している医療団SSAMKの研修会に招かれたのは、そのご夫妻の計らいであった。

 昔から学問の府としての歴史を刻んでいるウプサラは11月ともなれば午後3時過ぎには暗くなる。まして片栗粉のように細かくサラサラの雪が降っているので自転車に乗った学生たちの群が影絵芝居のように幻想的だった。

 研修会のプログラムは、核問題を医学的に追及するだけに留まらず、EU加盟国としての道義的・経済的な面からも論じる内容だった。

 広島平和記念資料館(原爆資料館)提供の資料が展示してあったから、参加された面々のヒロシマ・ナガサキへの視線は熱く、私の被爆体験も医学者としての見識をもって傾聴して下さった。ガボー氏は広島訪問後に被爆後遺症についてのレポートを発表されていたので、部会では質問を一身に集めて居られた。論議は専門的なことに終始していたようなので、私には理解できないが、非戦・反核の意気込みだけは伝わってきた。

 その夜、ウプサラ大聖堂で演奏されるハイドンの天地創造を聴きに行った。

 あれ以来、スウェーデンを訪れる度に列車の窓からウプサラの町並みを眺めた。その度に、ルンクマニ夫妻とクリスマスイヴを過ごしたこと、核兵器廃絶に心を砕いている医師団に出会ったこと、厳粛な「天地創造」を聴いたのを思い出している。

 ちなみに、SSAMKは85年度ノーベル平和賞を受賞したIPPNW (核戦争防止国際医師会議)に連なっている良心の団体である。次回は、ドイツのIPPNWとの出会いについて披露することとする。

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(会議の合間に談話するSSAMK会員たち)


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