2011年10月07日

33 スウェーデン編4-2

官意と民意

03年9月4日、スウェーデンの西海岸ヨーテボリの空港に着くと、映画スターでもファッションモデルでもなさそうな、知的な美しさを湛えた女性のポスターが目に付いた。持ち前の好奇心で、ヨーディス・アンデルソンさんに訊ねた。
 1995年、スウェーデンはEU(欧州連合)に加盟。2002年、共通のユーロ通貨になったが、スウエーデンはクローネを維持してきた。時が経つにつれて他のEU加盟国に倣ってユーロにする案が政府側から出された。その急先鋒がポスターの女性アンナ・リンダ外相である。その成否を問う国民投票が14日に行われるが、世論は現状維持を求めていると説明された。
 例年の如くに始まった被爆証言のプログラムをこなしている間にも、国民投票のことが絶えず話題になっていた。
 アンナ・リンダ外相は国民的アイドルで、次期首相との呼び声が高いそうである。
国の方針で、誰にでも福祉の手を差し伸べるから難民に税金を持って行かれてしまうとか、高い税金を払っているのに市民に還元されていないなどと、人々は、口角泡を飛ばして賛否を論じ合っていた。
「通貨がユーロになったらEU加盟国の中でも力のある国だけが徳をする」とまで言い出す始末なので、「それって、戦争の引き金になりそうね」と言えば「そうさ、戦争だよ。一触即発だよ」とも言われた。
 10日夕刻、テレビ画面が突然変わって「アンナ・リンダ外相が刺されました」と、アナウンサーが絶叫した。その夜のうちに彼女のポスターが街角から消えた。
 11日昼下がり、あちこちでスウェーデンの半旗を見た。その時からテレビもラジオも彼女の追悼と、犯人探しを延々と報道した。14日、国民投票の答えはノーと出た。
 とんでもない歴史を刻んだ渦中に居合わせて戸惑いの日々だったが、被爆体験を語る機会は例年に劣らない回数だった。ストックホルム近郊ニクバン在住のグスタフソン夫妻が「長年、戦争をしていないスウェーデンだからと言って、この先は、どうなるか分からない」と、各地の学校や教会に被爆証言を聞きなさいと、強力に売り込んで居られたからだった。どの会場も「核戦争は意図的には起こらないだろうが、核兵器は廃絶しない限り災いの種」と、発言されて熱気があった。
 19日、私にとって久々の休日がとれたので、アンナ・リンダ外相の葬儀を見に行った。弔問に訪れた各国の要人を警護する様は、まさに、一触即発の感があった。

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(アンナ・リンダ外相の追悼番組)

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(スウェーデン紙幣)

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